いま、あなたに怒ってくれる人がいますか?そして、それを感謝できるでしょうか?
若い人にとって、自分を十分に育て上げてくれる職場環境に恵まれていないという点も、心のゆとりをなくす一因となっているのです。
そもそも、社会人になりたての頃は、先輩や上司の助けがなければ、一人前の仕事ができませんよね。そんなの当たり前で、最初は誰でもそういうもので、失敗をして上から怒られ、1年2年3年と失敗を重ねて学んで、だんだん仕事が面白くなっていくものなのです。
ところが最近は同じ職場で働く人々が手取り足取り仕事の指導をしてあげるなんてことは滅多にありません。特に・派遣社員やパート、アルバイトを育て上げよう、なんて気は企業にさらさらないでしょう。教える側にも余裕がないのです。
18〜22歳からの数年間は、社会人として、また仕事人としての基礎をつくっていく大切な時期です。いちばん鍛えられる時期といってもいいかもしれません。
この時期に先輩や上司から揉まれる経験がないと中身空っぽ。空芯菜みたいな人間になってしまいますよ。
でも、時代的に、先輩や上司も自分のことで手一杯で、部下や後輩のことまで気にかけてはくれません。叱られて学ぶという機会を逸してしまうと、「自分はこのままでいいんだ」と思ってしまいがちです。
そのまま20代後半から30代になった人が大変なのは、このあとです。
「そろそろ本格的に仕事で成果を挙げよう」という段になってはじめて、「そのやり方では、顧客を説得できない」とか、「予算の組み立て方が現実的でない」「最後の詰めが甘い」とか、周囲から言いたい放題、至らぬ点を指摘されたりするのです。
親に叱られた経験もあまりない上に、会社で上司や先輩にちょっときつく言われると、ひどく傷ついてしまいます。もともとメンタル的に弱い上に経済的にも弱い立場だったりしたらかなりの衝撃で、ひどい場合は、わなわなと体が震えるほどだったり、過呼吸発作を起こしたりしてしまいます。
叱ってくれる人がいない上に、育ててくれる気もない。そんな環境の中で生きていかなければならない、というのもかわいそうです。
日本が戦後の奇跡の復興をとげたのは、上の世代が下の世代を育てるという使命感を失ってこなかったからです。その教育する力があればこそ、焼け野原の中でどの世代も手を取り合って同じ目標に向かって進むことができたのです。
今、上の世代が下の世代を育てない。さらに下の世代はもっと下の世代を育てる能力がない。こんな悲劇を繰り返したら、この国の未来には何が待っていることでしょう。
院長 高橋龍太郎著書『仕事も人間関係も「いっぱいいっぱい」にならない方法』より抜粋