ペコペコ頭を下げて謝るのは立場の弱い人、立場の強い人は滅多なことでは謝らない、という意識が私たちの脳裡に染み付いています。
ですから、会社でも部下が上司に謝るのはごく自然のこととして受け入れられ、上司が部下に謝ったりするようなことでもあれば、社員たちはびっくりして大騒ぎになることでしょう。
しかし、本当なら、上司が部下に謝るべき場面というのはけっこうあるんです。
たとえばの話、課長が部長の指示通りに仕事を進めたけれど、トラブル続きで暗礁に乗り上げてしまったときなど、部長は自分の指示ミスを認めて一言謝罪しても良さそうなものです。「悪かった。こうなってしまったのは私に責任がある」ってね。まず一言謝ったうえで、「今後はこうしよう。頑張ってくれよ」と言ってほしいものです。
それなのに、自分に責任はないとばかり、頭ごなしに部下を叱りつける上司が多すぎやしませんか。あなたの会社でも、理解のない上司に泣いている人がいるのではないでしょうか。
そんなとき部下は、面と向かって上司を非難することなどできやしません。それでも多少は言い訳なんかもしたりして、その言葉の端々に上司の責任を問うような雰囲気がにじみでることもあるのではないかと思います。
そこで上司が「俺はそんなことを言った覚えはない」と居直ったりしたら、部下はどんな気持ちになるでしょう。「チェッ、仕事がうまくいけば自分の手柄にするくせに、うまくいかないときは人のせいにするんだもんな。やってらんないよ!」と頭にきますよね。
そのうえさらに部長が逆ギレして、「俺が指示したのと違うことをした。失敗したのはお前のせいだ」と責めたてたら、部下は窮地に立たされます。
部下に対して理不尽な態度をとる上司は尊敬に値しないということは確かなのです。
張り切って仕事をしている部下の能力を認め、「おまえのやりたいようにやってみろ」と励ましたり、部下が何か失敗すれば、「任せておけ。俺がカバーしてやる」と後始末をかってでたりするのが理想的な上司のありようだと思います。
部長なら部長というそのポジションを、会社なり社会なりがきっちり保証してくれるシステムにならない限り部下の前でいいカッコをしたくてもできません。そう思うと、何があっても断じて謝ろうとしない上司がいても、その理不尽な態度の裏側に潜む「弱味」みたいなものが見えてきて、少しは許せるような気もします。
私たちは、そんな弱味を抱えた上司を反面教師にしていけばいいのだと思います。「いくら部長だ課長だといったところで、謝ることもできないんだな。かわいそうに」と心中ひそかに同情してあげましょう。そして自分は、謝るべきときにはきちんと謝ることのできる人間でありたいと自分を高めていくことが大切だ、というのが私の持論です。
謝ることでお金がかかるわけでもない。だから気楽に謝ってしまおうと思える人のほうが、謝ることもできない人に比べて、はるかに生きた心地がするのもです。
院長 高橋龍太郎著書『「謝る力」が器を決める』より抜粋