「歌は世につれ、世は歌につれ」は昭和の歌謡ショーの定番の決まり文句ですが、これを病におきかえて、「病は世につれ、世は病につれ」とすると私の精神科の臨床現場を端的にあらわにしているものになります。
30年前は統合失調症が時代を象徴した病でした。20年前はうつ病、10年前はパーソナリティ障害でした。最近5年は双極性障害、そして最近圧倒的に多いのが発達障害。なかでもADHD(注意欠如多動症)の問い合わせが増えています。
自分でネットで調べてそう思った人や、会社の人に言われるまで気付かない人まで様々ですが、「スケジュールを忘れてしまう」「同時進行の仕事がうまく割りふれない」「よく朝寝坊をして遅刻する」「部屋が片付かない」「落着きがない」「集中できない」等訴えは多彩です。
最新のDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引、アメリカ精神医学会による)による診断基準は次のとおり、以下のうち6つの症状があれば注意欠如症があることになります。
ⅰ 細部を見落す
ⅱ 課題への不注意
ⅲ 聞いていないような態度
ⅳ 課題を達成できない
ⅴ 課題を計画的にできない
ⅵ 持続的に精神活動を要する課題の回避
ⅶ しばしば課題に必要なものを失くす
ⅷ 容易に気が変わる
ⅸ しばしば忘れ易い
以下のうち6つが存在すれば多動症があることになります。
ⅰ 落ち着きのなさ
ⅱ 席を離れる
ⅲ 走る 高いところへ登る
ⅳ 静かにしていられない
ⅴ 過活動
ⅵ しゃべりすぎる
ⅶ 早く答えを言ってしまう
ⅷ 順番を待つことが困難
ⅸ 割り込みや侵入
チェックしてみてはいかがでしょうか。注意欠如と多動は両方が合併するケースもあれば他方だけのこともあります。
注意欠如多動症は、「小さい時から落着きのない子供だった」と症状を自覚しているケースもあれば、本人が自覚しないまま過ごしてくることも多い病といわれます。学生時代は試験科目がひとつひとつバラバラですから、それに集中すればこなせる事が多いのです。ところが実社会に入ると同時進行する仕事ばかりで、一気にパニックになってしまいそれで初めて病気と分かるケースも多いのです。他にも「よく転ぶ」「他の人に比べて一部の感覚が過敏になりすぎる」等の症状があります。
ここ10年で5倍以上にADHD(注意欠如多動症)の患者さんが増えた背景は、高齢出産が増えた、環境のホルモン汚染の問題、人工添加物が増えすぎた、ゲームばかりやって子供遊びがなくなった、少子化もあるのでは、といろいろ議論があります。しかし幸いなことにこのADHD(注意欠如多動症)は新しい薬が使用可能になっており、ある程度は治療可能な病なのです。薬を使うことで「今まで混乱していた頭がまとまるようになってきた」「朝ちゃんと起きられるようになってきた」「仕事もスムーズに運べるようになった」等、早期に回復を実感する方が沢山いらっしゃいます。心あたりの方は是非当院へお越しください。
(ADHDは以前は注意欠陥多動性障害と言われていましたが、最近は注意欠如多動症とよりマイルドな呼び方に変わってきました)
医療法人社団こころの会理事長・タカハシクリニック院長 高橋龍太郎